コロナ禍のリモートワーカーは必見!睡眠が乱れがちな今こそ、ビタミンが必要な理由
コロナ禍のリモートワーカーは必見!睡眠が乱れがちな今こそ、ビタミンが必要な理由
国際医療福祉大学
大学院 教授/医学博士
中田 光紀 先生
(なかた あきのり)
早稲田大学人間科学部卒業後、東京大学大学院医学系研究科にて医学博士を取得。産業医科大学産業保健学部・大学院産業衛生学専攻教授、米国疾病予防センター労働安全衛生研究所チーム・リーダーなどを経て、2018年より国際医療福祉大学大学院で公衆衛生学や社会医学の分野責任者を務める。
赤坂心理・医療福祉マネジメント学部学部長・心理学科長も兼任。
睡眠医学やストレス・メンタルヘルス研究、精神神経内分泌免疫学など分野で研究を進める。
コロナ禍での在宅勤務が続く中、オン・オフのメリハリをつけづらいリモートワークによって睡眠不足になったり、睡眠リズムを崩したりしていませんか? 実はこうした睡眠の乱れは、免疫機能を低下させ、風邪や新型コロナウイルスなどの感染症にかかりやすくしたり、糖尿病や高血圧といった生活習慣病になるリスクを高めたりするといわれています。では、免疫の低下につながる睡眠の乱れを改善するにはどうすれはいいのでしょうか。国際医療福祉大学大学院で睡眠医学を研究する中田光紀教授に、睡眠が心身に与える影響や睡眠の質を高める方法について話をお聞きしました。
コロナ禍のリモートワークで
進行する、「社会的時差ぼけ」
などの睡眠の乱れ
新型コロナウイルスの影響で急速に広まった、リモートワークという新しい勤務形態。その結果、生活にオン・オフのメリハリがなくなったり、生活リズムが変則的な夜型になって、睡眠の質が低下したと感じている人が増えているといいます。事実、中田教授は「睡眠で大切なのは、量と質とリズムの3つの要素」だと前置きした上で、「ストレスや不安を感じやすくなったコロナ禍はそれぞれに悪い影響を与えている恐れがあるが、中でも睡眠リズムを崩してしまっている人は増えているのではないか」と指摘します。
「規則正しい生活を送るために欠かせない私たちの睡眠リズムには、実は「社会的時差ぼけ」といわれる平日と休日の睡眠時間のズレが強く関与しています。このズレが大きいほど、体内時計を狂わせ、日中眠くなったり、眠りたい時間に眠れないといった睡眠問題を引き起こしてしまいます。コロナ禍でのリモートワークが自宅で夜遅くまで仕事をする機会を増やしたり、定時出社の必要性をなくしたことで、平日でも休日のように遅くまで寝てしまうなど、 「社会的時差ぼけ」を起こす原因を増やした可能性は高いといえるでしょう」(中田教授)
就寝時刻と起床時刻の中心を「睡眠中央時刻」といい、平日と休日の睡眠中央時刻の差を「社会的時差ぼけ」といいます。睡眠時間を十分確保できていると思っていても、このズレが大きくなれば、睡眠リズムは乱れやすくなってしまいます。
従来は夜勤のあるシフト勤務者や平日の睡眠不足を休日の寝だめで解消しているような人たちで、その問題が指摘されてきましたが、コロナ禍での生活リズムの変化はより多くの人たちに「社会的時差ぼけ」を生じさせるリスクを高めてしまったよう。
強い不安や緊張による睡眠不足や質の低下はもちろん、「社会的時差ぼけ」による睡眠リズムの乱れも、コロナ禍の現在、私たちが注意しなければならない睡眠問題のひとつといえます。
睡眠の乱れは万病のもと!
免疫力の低下など、
さまざまなリスクを引き起こす
では、こうした睡眠の乱れは私たちの心身にどのような影響を与えるのでしょうか。中田教授は「脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化症から高血圧や肥満などの生活習慣病、がんや免疫不全などの重大な疾患から抑うつや希死念慮などの精神系の障害まで、睡眠の乱れは私たちが想像する以上に多くの病気にかかるリスクを高めてしまう」と説明し、加えて「コロナ禍で気をつけなければならない免疫力の低下を引き起こす原因にもなる」と強調します。
その根拠として、中田教授は次のような興味深い調査結果を教えてくれました。
睡眠不足の人は、十分に休息を
とった人より4倍風邪にかかりやすい
2015年にアメリカの学術誌『Sleep(スリープ)』に発表された研究結果は、睡眠と免疫の結びつきをわかりやすく表しています。この実験を試みたカリフォルニア大学サンフランシスコ校のアリック・プレイザー助教授率いる研究チームは、164名の被験者をホテルに隔離して風邪ウイルスを点鼻剤で投与し、ウイルスの定着率(風邪に罹患したかどうか)と睡眠時間の関係性を1週間にわたって調査しました。
※ストレス、気質、アルコールや喫煙の習慣などの因子を把握するため、被験者には事前に健康診断を受けてもらい、被験者の習慣的な睡眠時間は、実験開始前の1週間で測定しています。
「その結果、1晩の睡眠時間が6時間未満だった人は、7時間を越える睡眠を取っていた人と比べて、風邪にかかる確率が4.2倍高いことが判明しました。睡眠時間が5時間未満の人との比較では、その差は4.5倍です。プレイザー助教授は『事前に調べたさまざまな因子を考慮しても、睡眠不足は風邪にかかるリスクを最も高めるファクターだった』と述べています」(中田教授)
睡眠不足は、このように風邪にかかりやすくすることはもちろん、その頻度を高めたり、回復を遅らせる要因にもなるので注意が必要だと中田教授は語ります。
睡眠不足は、ヘルパーT細胞などの
免疫細胞の数を減少させる
また、2002年に中田教授たちが行った、睡眠不足と免疫細胞数の関係性を分析した調査でも注目に値する結果が出ています。この調査では、健康な男性の事務系労働者147名を対象に平日と休日の睡眠時間と睡眠不足感をリサーチし、「かなり睡眠不足」「やや睡眠不足」「まあまあ睡眠がとれている」「十分睡眠がとれている」の4群に分けて、免疫細胞の数がどのように変化しているかを明らかにしました。
「被験者の約6割が睡眠不足を感じていて、平日と休日の睡眠時間のズレを調べてみると、 「社会的時差ぼけ」が生じている人も多くいました。結果はやはり、睡眠が不足してしまうと、免疫の司令塔として知られるヘルパーT細胞やウイルスなどに感染した細胞や腫瘍細胞を殺傷するキラーT細胞などの免疫細胞が減少する傾向にあることがわかりました」(中田教授)
これらの調査以外にも、日々の睡眠不足が借金のように積み重なった「睡眠負債」がIgMという抗体を増やして免疫のバランスを崩したり、睡眠不足がナチュラルキラー細胞と呼ばれる免疫細胞の働きを弱めるなど、睡眠の乱れによって免疫機能が低下することを示す調査結果は数多く報告されているといいます。
コロナ禍の眠りの乱れを整える!
免疫力の低下を防ぐ、
4つの睡眠習慣
免疫力の低下につながる睡眠の乱れを改善するにはどうすればいいのでしょうか。最後に、その解決策についても中田教授にお聞きしました。
「睡眠問題を解消するにはたくさん寝ればいい」と短絡的に考えてしまう人も多いそうですが、実は睡眠のとり方や栄養の摂り方を工夫することが大切とのこと。「最近、睡眠の質が下がったかも」と心当たりのある人は、次の4つの習慣を取り入れてみることをおすすめします。
1
「社会的時差ぼけ」を1時間以内に収める
コロナ禍での睡眠の乱れで中田教授が最も危惧する 「社会的時差ぼけ」。その対策には、平日と休日の睡眠中央時刻をできるだけズラさないようにすることが大切です。
「週末に平日よりも2時間多く寝たいという場合には、1時間早く寝て、1時間遅く起きるように心がけましょう。そうすれば、睡眠中央時刻をズラすことなく、2時間余分に寝ることができます。 「社会的時差ぼけ」は、1時間以内に収めるのが望ましいですね」(中田教授)
2
睡眠環境や寝る前の準備を整える
睡眠の質やリズムをよくするには、睡眠環境や就眠前の準備を整えることも重要です。「こうすればよく眠れる」という、自分なりの睡眠スタイルを確立できれば理想的とのこと。
「高齢者において睡眠中に豆電球をつける人は、完全に真っ暗にして寝る人と比べ、抑うつの発症リスクが1.7倍高いという調査結果があります。寝室を真っ暗にして、静かで快適な温度環境を保つように心がけたり、自分にフィットする寝具を使うなど、寝る環境にこだわることは大切です。また、睡眠への準備として、就寝前に自分がリラックスできる習慣を取り入れるのも効果的です。私は背骨ストレッチと白湯を飲む習慣を取り入れていますが、効果を実感しています」(中田教授)
3
午後に15分程度の仮眠(昼寝)をとる
昼寝は夜の睡眠の妨げになると思われがちですが、15〜20分程度の仮眠であれば、かえって夜の睡眠を向上させる効果があるそう。自宅勤務のリモートワーカーであれば、午後の仮眠でリフレッシュして仕事の効率も上げられそうです。
「仮眠には心身がストレスを受けることで増えるコルチゾールというホルモンの分泌量を抑え、免疫機能を向上させる働きがあるという研究結果も報告されています。ただし、あまりに長く寝てしまうと脳が寝る体制となり、仮眠後に寝ぼけや眠気が増してしまうので注意しましょう」(中田教授)
4
不足しがちなビタミンなどの栄養素を摂る
ビタミン不足は睡眠と免疫の両方に悪い影響を与えてしまうため、不足しがちな人はサプリメントなどの栄養補助食品で摂取することもおすすめです。ビタミンDには免疫力を向上させる働きが、抗酸化作用をもつビタミンCにはストレスへの抵抗力を強める働きが、ビタミンB12には睡眠のリズムを整える働きがあることが知られています。
「私は忙しくて睡眠が乱れがちになると、眼精疲労がひどくなるため、ブルベリー由来のサプリメントを摂るように心がけています。やはり、人によって不足している栄養素は異なるため、自分に合ったものを見極めて摂ることが大切です」(中田教授)
食生活において、栄養バランスのとれた食事を毎日規則正しく摂ることが大切なように、睡眠もバランスや積み重ねが大切だという中田教授。コロナ禍で乱れがちな睡眠も正しい習慣とリズムでケアしていきたいものですね。