最近、“コロナ疲れ”で心が消耗しているかも? 慢性的なストレスは免疫力も低下させるって本当?

最近、“コロナ疲れ”で心が消耗しているかも?慢性的なストレスは免疫力も低下させるって本当?

みゆきクリニック院長

塙 美由貴 先生

(はなわ みゆき)

愛知医科大学を卒業後、同大学に勤務。その後、精神分析を志し、日本におけるフロイト研究や精神分析学の第一人者として知られる小此木啓吾氏や馬場禮子氏、日本を代表する作詞家にして精神分析家でもある北山修氏などに師事。
1996年に小此木啓吾氏を院長に迎え、みゆきクリニックを開設(小此木啓吾院長の死去にともない、みゆきクリニック院長に)。薬での改善が難しい症例に対し、分子整合医学を取り入れた積極的な治療を行い、高い成果を上げている。

近頃、気分の落ち込みが激しい、仕事や家事が手につかないと感じることはありませんか? 長期化する新型コロナウイルス感染症の流行は、“コロナ疲れ”や“コロナうつ”という言葉を生み出すほど、昨今、多くの人たちに強いストレスを感じさせているといいます。しかも、 慢性的に継続するストレスはメンタル面の不調だけにとどまらず、免疫機能も低下させ、さらなる体調悪化を招いてしまうことも……。そこで今回は、カウンセリングと栄養療法を組み合わせた、効果の高い心の治療を行う「みゆきクリニック」の院長・塙 美由貴先生に、ストレスが免疫機能に与える影響やその対応策について話をお聞きしました。

 先の見えないコロナ禍で増加中! 
 心に引っかかる 
 ストレスの正体とは? 

行動の自粛や働き方の変化が求められているコロナ禍の今、我慢や不安、焦燥感といったマイナスの感情からストレスを感じる機会が増えているといいます。事実、筑波大学が7000人以上を対象に行った全国調査(※)では、なんと8割以上もの人が「新型コロナウイルスの感染拡大でストレスを感じた」と回答するほど。コロナ禍で増加するストレスは、私たちが思う以上に多くの人たちの心に悪い影響を与えているようです。

では、そもそもこの「ストレス」という言葉とはいったい何を表しているのでしょうか? 現代社会はストレス社会といわれるほど、身のまわりはたくさんのストレスであふれ返っていますが、その意味合いを正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。塙先生はストレスの正体を次のようにわかりやすく説明してくれました。

「もともとストレスとは、物に力が加わることで生まれる“歪み”を表す物理学の用語でした。この概念をストレスの存在を発見したハンス・セリエ博士が医学の分野に応用させたことで、何らかの刺激が加わることで生じる心身の歪みや変調を表す言葉として広く使われるようになりました。医学の世界では、心や体にかかる外部からの刺激をストレッサー(ストレスの原因)といい、その刺激によって生じる心や体の反応をストレス反応と呼んでいます」(塙先生)

「仕事でストレスがたまっている」「運動をしてストレスを発散しよう」など、日常のさまざまな場面で私たちが使うストレスという言葉には、ストレッサーとストレス反応の両方の意味が含まれていて、同じストレッサーを受けてもその人の性格や体質によって生じるストレス反応は変わってくると塙先生は語ります。

また、一般的にストレスとは心理的な負荷を指していると思われがちですが、体の痛みや暑い・寒いといった気温変化、アルコールやタバコによる健康被害や窮屈な住環境など、身体が受ける刺激もストレスの原因となるそう。コロナ禍の現在では、テレワークによる人間関係の希薄化や感染への見えない恐怖といった心理的な要因に加えて、在宅勤務による運動不足や限られた自宅スペースで働く勤務形態といった身体的な要因にも警戒する必要があるといいます。

※筑波大学「新型コロナウイルス感染症に関わるメンタルヘルス全国調査」
https://plaza.umin.ac.jp/~dp2012/covid19survey.html

 あらゆる病気の原因に! 
 ストレスが免疫力を 
 低下させる理由 

そして塙先生は、こうしたストレスが慢性的な状態になると、自律神経系や内分泌系などに悪影響を与え、高血圧や胃・十二指腸潰瘍、糖尿病や心筋梗塞といったさまざまな病気を引き起こす要因になりかねないと注意を喚起します。特にコロナ禍の今は、免疫機能を低下させ、新型コロナウイルスなどの感染症にかかりやすくしてしまうことにもよりいっそうの注意が必要です。

「人間はストレスの刺激を受けると、脳の司令塔といわれる視床下部から特定のホルモン(CRH)が分泌されます。そして、下垂体がこのホルモンを受け取ると、今度は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)というまた別のホルモンが分泌され、副腎からストレスホルモンとして知られるコルチゾールが分泌されます。

コルチゾールには代謝活動や免疫機能を活性化させ、体をストレス状態から守る働きがあり、普段は『負のフィードバック』といわれる体内のメカニズムで適正な分泌量に保たれていますが、慢性的なストレスを受けるとこのメカニズムが壊れて、コルチゾールの分泌量が慢性的に増えてしまいます。この状態が続くと、うつ病や生活習慣病を招く一因となり、ナチュラルキラー細胞の働きを弱めることから免疫機能を低下させ、癌などの病気になりやすくなってしまうのです」(塙先生)

こうしたコルチゾールの過剰分泌は、免疫力を低下させる以外にも、副腎を疲労させて体を疲れやすくさせたり、学習や記憶を司る脳の海馬を萎縮させたり、「命の回数券」と呼ばれるテロメアというDNAの一部を傷つけるなどの害をもたらすといいます。

また最近では、ストレスが炎症性サイトカインを発生させ、これにより生じる炎症反応が免疫機能を低下させて、うつ病をはじめとするさまざまな疾患の一因になるということもわかってきたそうです。

 運動・睡眠・食事の3つが基本! 
 塙先生が教える、 
 ストレス対応策 

では、慢性的なストレスによる免疫力の低下を防ぐには、どのような対応策を講じればよいのでしょうか。塙先生は「仕事以外に夢中になれる趣味の時間をもつ、安定的な人間関係を築けるように努めるといった心に作用する対応策はもちろん、不調をきたした体をケアすることも大切」と話します。ここでは、塙先生が特に大切にする3つの基本を教えてもらいました。

1

毎日少しずつ運動をする

運動はストレスを解消するだけでなく、ストレスに強い心身をつくるためにも効果的です。毎日少しずつでも運動をすることで、精神を安定させるセロトニンや免疫力を向上させるエンドルフィンが安定的に分泌され、ストレスや疲労解消に効果を発揮してくれます。コロナ禍で運動不足を感じている人は、ぜひ実践してみましょう。

「激しい運動をする必要はありません。1日20〜30分でもいいので、毎日時間を確保して、自分が気持ちいいと感じるペースで体を動かしましょう。特にストレスの緩和には、軽いランニングやサイクリングといった有酸素運動が効果的だといわれています。また、緑の多い公園などに散歩に出かけて、気分を切り替えてみるのもいいでしょう」(塙先生)

2

十分な睡眠をとる

とかく現代人は睡眠不足になりがちです。睡眠不足はコルチゾールの分泌バランスを乱し、ストレスへの抵抗力を弱めたり、免疫機能を低下させます。また、脳機能も低下させ、仕事のミスやトラブルを増やすことも指摘されています。

「睡眠には、脳を休めてストレスを緩和させる癒しの効果があります。その人に合った最適な睡眠時間をとることはもちろん、睡眠の質を向上させるために、就寝前にスマホをいじらないように心がけたり、アルコールやカフェインなどの刺激物を摂らないことも大切です。朝は太陽の光をしっかり浴びて、睡眠リズムを整えましょう」(塙先生)

3

サプリメントで栄養バランスを整える

運動、睡眠と並んで大切なのが食事です。ストレスと食事は密接な関係にあり、栄養バランスが乱れると、ストレスに弱い体質になりやすいといいます。そのため、1日3食、栄養バランスのとれた食事をとることが大切ですが、何かと忙しい毎日の中では、難しいと感じる人も多いかも……。塙先生は、食事の補助として、次のビタミンをサプリメントで摂ることをおすすめしてくれました。

ビタミンC

「ビタミンCには、コルチゾールを分泌する副腎を保護する働きがあり、ストレスに対する抵抗力を高めてくれます。また、正常な細胞を傷つけることなく、ウイルスやがん細胞などの外敵をやっつける働きもあります。人間は100万年前に起きた遺伝子の突然変異によって体内でビタミンCを合成できなくなってしまったため、積極的に摂取する必要があります」(塙先生)

ビタミンB群

「ビタミンBはあらゆる代謝に必要となる大事な栄養素です。免疫細胞やストレスホルモンの材料となるタンパク質を合成する際に補酵素としてたくさん消費されるため、ビタミンBが不足すると、免疫細胞やストレスホルモンがうまく作られなくなってしまいます」(塙先生)

ビタミンD

「免疫機能を調整する働きがあるビタミンDは、血中濃度が高いと、新型コロナウイルスに感染しても重症化しづらいという研究結果もあります。サケやしいたけ、しらすといった食材に多く含まれていることが知られていますが、サプリメントで摂取するときは、体に負担の少ない不活性型を選ぶようにしましょう」(塙先生)

「ストレスは意外と自覚しづらく、イライラや気分の落ち込みといったサインが出る頃には、すでに心身に影響をきたしてしまっている」と語る塙先生。こうなる前の日々のケアで、早め早めに対処していくことが効果的といえそうです。