感染症から生活習慣病の対策まで!最強の予防と呼ばれるビタミンDの新たな可能性

感染症から生活習慣病の対策まで!最強の予防と呼ばれるビタミンDの新たな可能性

医学博士

満尾 正 先生

(みつお ただし)

1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業。杏林大学救急医学教室講師、ハーバード大学外科代謝栄研究室 研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経て、2002年に日本で初めてアンチエイジング専門の「満尾クリニック」を開設。日本キレーション協会代表、米国先端医療学会(ACAM)理事。著書に『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)など多数。

いまだ収束の見通しが立たない新型コロナウイルスについて、世界中で専門家による研究が進められる中、新型コロナウイルスとビタミンDの因果関係を指摘する研究報告が増えているといいます。以前からインフルエンザなどの感染症にビタミンDが有効であることは知られていましたが、その優れた効能はどうやら新型コロナウイルスにおいても期待できるよう。そこで、ここではビタミンDの効果を徹底検証した話題の書籍『医者が教える「最高の栄養」 ビタミンDが病気にならない体をつくる』(KADOKAWA)を上梓した医学博士の満尾正先生に、本書をもとにしながらその詳細について話をお聞きしました。

 あらゆる感染症に 
 ビタミンDが効果的な理由 

ビタミンDは生活習慣病やガン、骨粗しょう症やサルコペニアなど、さまざまな病気の予防に効果を発揮することが知られていますが、なかでも注目すべきは優れた免疫調整作用にあります。免疫とは、外から侵入してきた細菌やウイルスなどの外敵を認識し、排除する体の防御システムのこと。ビタミンDには、この免疫をコントロールして正常に保つ働きがあり、その作用がインフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症リスクを減らす要因になっていると満尾先生は語ります。

「ビタミンDの持つ免疫調整機能のメカニズムは長らく解明されていませんでしたが、2006年に、ビタミンDを投与するとマクロファージ内に『カテリジン』という抗菌ペプチドの一種が作られて結核菌の増殖を抑えることが報告され、抗菌作用が働いていることがわかりました。

一方、別の研究では、ビタミンDが免疫細胞の活性化や機能抑制に欠かせない『サイトカイン』の分泌に影響を与えるという報告があります。サイトカインにはさまざまな種類がありますが、なかでも炎症を引き起こすものを『炎症性サイトカイン』、炎症を抑えるものを『抗炎症性サイトカイン』と呼びます。ビタミンDには、炎症性サイトカインの濃度を低下させ、抗炎症性サイトカインの濃度を増加させる働きがあります。つまり、炎症につながる物質は抑制し、炎症を抑える物質を産生する、抗炎症作用があるわけです。

このビタミンDが持つ抗菌作用と抗炎症作用により、体内で起こる炎症が抑制させることで、細菌やウイルスの感染リスクを軽減させると考えられます」(満尾先生)

また、新型コロナウイルスの重症化でもっともよく見られる急性呼吸窮迫症候群(ARDS/肺炎や敗血症などにより重症の呼吸不全をきたす病気)は、先述の炎症系サイトカインが暴走し、正常な細胞や組織を破壊する「サイトカインストーム」から合併する症例が多いといいます。

現時点では、ビタミンDが新型コロナウイルスを予防する確固たるデータはないものの、ビタミンDの持つ免疫調整作用がしっかり機能していれば、サイトカインストームによる致命的な合併症は防げる可能性は十分にあると満尾先生は語ります。

 血中ビタミンD濃度と 
 新型コロナウイルスの関係性 

では、こうした感染症リスクを軽減するビタミンDの働きは、新型コロナウイルスにおいてどのような効果を発揮するのでしょうか。その因果関係を調べようと、世界各国でさまざまな研究が進められています。満尾先生は次のデータをもとに、新型コロナウイルスとビタミンDの関係性を説明してくれました。

欧州20カ国の例(血中ビタミンD
濃度が低い国は、死亡者数も多い)

の図は、欧州の20カ国でビタミンDと新型コロナウイルスの関係を調べた研究結果になります。感染者数と死亡者数がその国の平均血中ビタミンD濃度と負の相関にあることが明らかにされました。つまり、血中ビタミンD濃度が高い国ほど、感染者数や死亡者数が減る傾向にあるということになります」(満尾先生)

「欧州各国の新型コロナウイルスによる死亡者数と血中ビタミン濃度を比較すると(2020年8月時点)、多少の誤差はありますが、血中ビタミンD濃度が低い国は、死亡者数も多い傾向にあります。一方、国が国民にビタミンDの摂取を推奨している北欧4カ国は、特殊な対策をしたスウェーデンをのぞいて、死亡者数が低い傾向にあることがおわかりいただけるかと思います」(満尾先生)

アイルランドの例(重症者は明らかに
血中ビタミンD濃度が低い)

アイルランドでは、40歳以上の新型コロナウイルスに感染した患者33名の経過と血中ビタミンD濃度の調査を行いました。そのうち、12名は重症化してARDSとなり、4名が死亡。残りの21名は重症化せずに回復したといいます。

「ARDSを合併した12名は、明らかに血中ビタミンD濃度が低い傾向にありました。ただし、軽症者の血中ビタミンD濃度も16.4ng/mlと相対的に低い値であるため、重症度にかかわらず、新型コロナウイルスに感染する人は、血中ビタミンD濃度が低い傾向にあるのかもしれません」(満尾先生)

※血中ビタミンD濃度の高い人と低い人を比較したデータではないため、現時点では、血中ビタミンD濃度が低いと新型コロナウイルスに感染しやすと断言はできません

ベルギーの例(感染者は血中
ビタミンD濃度が低い)

同じく、ベルギーでも新型コロナウイルス感染患者186名(男性109名、女性77名)と血中ビタミンD濃度の関係性について調査を行いました。すると、新型コロナウイルスの感染者は有意に血中ビタミンD濃度が低い傾向にあることがわかったといいます。

「グラフ左の年齢や性別を同等にしたベルギー人の平均的な血中ビタミンD濃度と比較して、グラフ右の新型コロナウイルス患者の血中ビタミンD濃度が低いのは明らかです。また、血中ビタミンD濃度が20ng/ml未満のビタミンD欠乏患者の割合も、対照群では45.2%であるのに対し、新型コロナウイルス患者では58.6%と高い割合を示していました。この傾向は特に男性に顕著で、対照群の49.2%に対し、新型コロナウイルス患者は67%となっていました。この報告では、新型コロナウイルス患者にビタミンDが不足していることは否定できない事実だと結論づけています」(満尾先生)

 ビタミンDの新型コロナウイルスの 
 治療薬としての可能性 

さらに注目すべきは、ビタミンDを新型コロナウイルスの治療薬として投与することで重症化を防げた報告があることだと満尾先生は続けます。2020年8月29日に発表されたスペインの研究では、二重盲検法というもっとも信頼できる調査法に基づいて、76名の新型コロナウイルス感染患者をビタミンD服用群50名と非服用群26名に分けて、その後の症状の変化を調べています。

「ビタミンD服用群には、カルシフェジオールというビタミンD製剤を入院日に0.532mg、3日目と7日目に半量の0.266mg、その後は1週間ごとに0.266mgを服用してもらいました。すると、非服用群では半数の13名が重症化してICUに入室したのに対し、ビタミンD服用群で重症化してICUに入室したのは50名のうちたった1名でした。死亡者数を見ても、非服用群では2名が亡くなったのに対し、ビタミンD服用群ではひとりも亡くなりませんでした」(満尾先生)

この臨床試験結果は、ビタミンD製剤の服用が新型コロナウイルスの重症化を大幅に防ぐだけでなく、死亡すら回避させる可能性を示唆した非常に画期的ものだと満尾先生は語ります。サンプル数が少ないため、確信的な結論を導くことはできませんが、ビタミンDが新型コロナウイルスの治療薬として効果を発揮する可能性はあると考えてもよさそうです。

このように「血中ビタミンD濃度が低いと新型コロナウイルスの重症化リスクが高まり、死亡率も高まる傾向にある」という調査結果は、世界中の研究者から報告されているといいます。その理由としては、先述のとおり、ビタミンDの免疫をコントロールする力が、サイトカインストームやそれにより引き起こされるARDSなどの致命的な合併症を防いでいる可能性が指摘されているよう。

もちろん、新型コロナウイルスは人類が初めて経験する未知の感染症であるため、まだまだ解明されていないことも多く、確実なことがわかるまでにはさらなる調査や研究を重ねる必要がありますが、現時点でもビタミンDの優れた免疫調整作用は新型コロナウイルスとも密接な関係にあることが示されているのは確かなようです。