免疫のスペシャリストが解説する!ビタミンDと免疫機能のメカニズム
免疫のスペシャリストが解説する!ビタミンDと免疫機能のメカニズム
医学博士
飯沼 一茂 先生
(いいぬま かずしげ)
1948年生まれ。立教大学理学部卒業後、米国製薬企業に研究員として勤務。1987年大阪大学医学部にて医学博士取得。2010年より国立国際医療研究センター・肝炎免疫研究センター客員研究員、2012年からは純真学園大学客員教授も務める。腫瘍や感染症などの測定法開発に多く携わり、特に肝炎の検査薬については、C型肝炎の輸血による感染をC型肝炎マーカーの開発により撲滅させた世界的実績をもつ。免疫のスペシャリストとして知られ、日本機能性免疫力研究所の代表を務める。著書に『それでは実際、なにをやれば 免疫力があがるの? 一生健康で病気にならない簡単習慣』(ワニブックス)など。
近年、免疫のバランスが崩れることで生じる慢性炎症が、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病から心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化症、ガンや潰瘍性大腸炎をはじめとする重大な疾患から認知症やうつ病などの神経系の疾病まで、まさに“万病の元”となることがわかり、免疫の重要性も広く知られるようになってきました。では、そもそも免疫とはどういったメカニズムで機能し、どんな働きによって私たちを病気から守ってくれるのでしょうか。免疫力アップに欠かせないビタミンDの効能とともに、免疫のスペシャリストとして知られる医学博士の飯沼一茂先生に解説していただきました。
3つのバリアが防御!
私たちの体を守る免疫システム
免疫とは、その名のとおり、感染や病気などの「疫(えき)」から「免(まぬが)れる」抵抗力を指し、「神経系」や「内分泌系」とともに、人間が本来もっている病気や傷を治す「自然治癒力」に欠かせない大事なシステムだと飯沼先生は語ります。
そんな免疫は、「粘膜免疫」「自然免疫」「獲得免疫」という3つのバリアで構成され、それぞれのステージでさまざまな細胞や抗体が私たちの体を守ってくれています。順を追って、その働きについて説明していきます。
外敵の侵入口で待ち構える、
最初のバリアが「粘膜免疫」
外部から細菌やウイルスが侵入してきたとき、第一の関門としてそれらを迎え撃つのが「粘膜免疫」です。人間の体は、目、鼻、口、胃、肺、腸管と、ほとんどが粘膜で覆われていますが、この粘膜組織には外敵から身を守る防御システムが備わっています。
「中でも重要なのが、粘膜の表面に分泌される『IgA』という抗体です。IgAには、外から侵入してきた細菌やウイルスにくっつくことで活動を抑制し、毒素を無力化する働きがあります。すると、外敵は体の中へ入ることができずに、便などと一緒に体の外へと押し流されていきます。また、万が一、体内に侵入してしまった場合でも、細菌やウイルスにくっついて目印をつけることで、他の免疫細胞に攻撃しやすい対象として認識させる働きもあります」(飯沼先生)
こうしたIgAを中心とする粘膜の働きで外敵の侵入自体を防ぐのが、粘膜免疫の主な役割。免疫力というと、体内に入ってきた細菌やウイルスをやっつける働きをイメージしますが、粘膜の健康を守って防御壁としての力を強化することも非常に重要なのです。
外敵が体の中に入ってしまったら、
2つのバリアが機能する
では、粘膜免疫のバリアを超えて、体内に細菌やウイルスが入ってきてしまったら、どうなるのでしょうか? 次のステージでは「自然免疫」と「獲得免疫」という2つのバリアが、二重の体制で待ち構えます。
「最前線で働く『自然免疫』では、マクロファージや好中球と呼ばれる免疫細胞が体内に侵入してきた外敵を食べて細かく破壊し、細菌やウイルスに感染してしまった細胞に対しては、ナチュラルキラー細胞と呼ばれる“殺し屋”が攻撃を行います。外敵の侵入や自分の細胞が異常になったことをいち早く感知し、それを排除する仕組みが動き出すわけです。同時に、侵入してきた細菌やウイルス、障害をきたした細胞がどんな特徴を持っているのか、情報を読み取り、メッセンジャー役の樹状細胞が後ろに控えている『獲得免疫』へ知らせます。
自然免疫だけで外敵の侵入を防げない状況になると、今度は獲得免疫の出番です。樹状細胞から受け取った情報を元に、ヘルパーT細胞がB細胞に『抗体』という弓矢のような武器をつくるように指令を出し、攻撃を開始します。細胞まで外敵に乗っ取られてしまったら、殺傷能力の高いキラーT細胞という攻撃部隊も出動し、一緒になって戦います。そして、制御性T細胞は免疫の暴走が起きないように獲得免疫を制御。次の侵入に備えて、メモリーB細胞が外敵の情報を記憶します」(飯沼先生)
この一連の流れが、私たちの体を守るために機能している免疫のメカニズムです。「免疫」と一言でいっても、その仕組みは非常に複雑。さまざまな細胞が見事なチームワークを発揮しながら、私たちの体を病気から守ってくれていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
知っておきたい、
ビタミンDと免疫力の密接な関係
続いて、こうした免疫機能に、免疫力を高める栄養素として知られるビタミンDがどのような働きをするのか話をお聞きしました。いろいろな研究結果が報告されているそうですが、代表的な効能として次の3つを教えてくれました。
細菌やウイルスを食べて破壊する
「マクロファージ」を活性化させる
「ビタミンDには、先ほど自然免疫の説明でお話ししたマクロファージという免疫細胞を活性化する働きがあるといわれています。体内に入ってきた細菌やウイルスを食べて破壊してくれる役目を担っているマクロファージが元気になれば、病気や感染症にもかかりづらくなり、免疫力の向上が期待できます」(飯沼先生)
免疫細胞の活性化や機能抑制に
欠かせない「サイトカイン」を調整する
細菌やウイルスが体内に侵入したとき、免疫細胞では「サイトカイン」というタンパク質が分泌され、外敵に攻撃の司令を出したり、逆に攻撃しすぎないように抑制したりして、バランスをとっています。このバランスが崩れ、正常な細胞まで破壊してしまう暴走状態に陥ることを「サイトカインストーム」といいます。
「ビタミンDには、マクロファージを通して、攻撃によって炎症を引き起こすサイトカインを減らし、一方で炎症を抑えるサイトカインを増やす働きがあるといわれています。この働きにより、過剰な炎症を起こす『サイトカインストーム』を抑える効果が期待できます」(飯沼先生)
殺菌・抗ウイルス作用のある
「カテリシジン」と「ディフェンシン」を誘導
「先に説明した3つの免疫バリアと並び、私たちの体を守ってくれる大事な免疫の立役者に『抗菌ペプチド』というものがあります。これは体の表面で病原菌が増えないようにしてくれる大事な物質。ビタミンDには、この抗菌ペプチドの代表ともいえる『カテリシジン』と『ディフェンシン』の産生を誘発する働きがあるといわれています」(飯沼先生)
カテリシジンには細菌やウイルスをやっつける働きが、ディフェンシンには抗ウイルス作用があります。それに加え、ウイルスの複製率や生存率を下げる効果もあることも教えてくれました。
免疫細胞にダイレクトに働きかける効能はもちろん、抗炎症作用や抗菌作用もあわせ持つビタミンD。その免疫調整力には、飯沼先生も強い関心を寄せているそうです。
飯沼先生が教える!
免疫力が上がる9つのルール
最後に、「どうすれば免疫力を上げることができるのか?」という疑問についてもお聞きしました。大事なポイントは、正しい生活習慣を身につけること。毎日の暮らしを少し見直すだけで、誰でも簡単に免疫力は上げられると飯沼先生は語ります。ここで紹介する、飯沼先生直伝の免疫力アップに欠かせない9つのルールを実践して、あなたも病気知らずの体を手に入れませんか。
1.過食をしない
過食は、消化器官の負担が増えることはもちろん、糖尿病や高血圧などの病気を引き起こす慢性炎症の要因になるといいます。さまざまな病気を招きかねないのでやめましょう。
2.ストレスを溜めない
ストレスが溜まると、脳が不快な刺激を受け、内分泌系や神経系のバランスを崩し、免疫力を低下させるそう。大切なのは、適度な緊張と適度なリラックス。そのためにメリハリのある生活を送りましょう。
3.適度な運動をする
適度な運動は体中の血流を上げ、リンパ球の巡りをよくしてくれます。
4.質のよい睡眠をとる
睡眠中は成長ホルモンが分泌され、壊れた細胞を修復するなど、免疫力がもっとも高まる時間だといいます。午後10時から深夜2時までのゴールデンタイムはしっかり眠りにつき、副交感神経が優位に働くように真っ暗な部屋で眠りましょう。
5.よく笑う
笑うと副交感神経が優位になり、ストレスホルモンの分泌が減少。がん細胞や細菌に感染した細胞を死滅させるナチュラルキラー細胞が活性化され、免疫力が向上するそうです。
6.体温を上げる
体温が1℃上がるだけで、私たちの免疫はなんと数倍もアップするといわれています。もっとも簡単に体温を上げられるお風呂にしっかり浸かって体を温めましょう。
7.栄養のバランス
免疫を高めるためには、特定の栄養素に頼るのではなく、いろいろな食品から栄養バランスの取れた食事をとることが大切です。1日3食バランスよく食べましょう。
8.腸内環境の改善
腸は多くのIgAが存在している大切な免疫器官です。ヨーグルトや納豆、みそやチーズといった発酵食品で腸内環境を整えることは、免疫力アップにつながるといいます。
9.サプリメントの活用
人間が本来持っている免疫力を高めるには、栄養バランスのとれた食事を規則正しく食べることが大切ですが、忙しい日々のなかで実現させるのは、なかなか難しいことも……。そんな人はサプリメントを活用して、免疫力低下をカバーするのもおすすめだそう。