ふだん話していることを録音して書き起こしてみると、ほとんど中学2年までの英語で言えることがわかります。

田尻先生は、中学校の英語教育に長く携わってこられました。そのことが本書ではどのような部分に活かされているのでしょう?

英語の基礎の約80%は、中学1年生と中学2年生で習うと言っても過言ではありません。ふだん話していることを録音して書き起こしてみると、ほとんど中学2年までの英語で言えることがわかります。それくらい中2までの英語は豊かなのです。
僕は、中学校の英語の授業で、英文構造を理解したうえで文章を作ることを生徒たちに体験させてきました。「文の構造はこういうふうになっている」ということを図式化して教えると、文法事項は全て中学2年生までに習うものなのに、内容は非常にハイレベルなことを書いてきます。そういう作文を生徒たちがたくさん生み出してくれたので、その秘訣がなんなのかということを、この本で紹介したかったのです。

英文構造を理解することが重要ということですね

一番大切なのは語順です。それを裏付けるおもしろいエピソードをご紹介しましょう。僕の父は全く英語を話せませんが、外国の知人が来たときに、“me Goro papa hair cut cut”と言ったところ、相手が“ Oh, you are Goro’s father and you are a barber.”と言って、父が散髪屋をしていることが理解できた。つまり、大切な単語をそれなりの順に並べれば、細かいミスはあっても通じるんだということがわかって、ある意味、衝撃でした。
このように語順を知ることは非常に大切で、しかも、その語順のほとんどが実は中学1年で出てきます。ですから、中学1年の課程をやり直すことで、かなり英語の構造がみえてくるはずなのですが、語学書というのは中学1年レベルのことを出すと、そんなの簡単すぎると見向きもされない可能性があります。したがって、どうしても普段の会話の中で使われる、いわゆる「自然な発話」を例文として載せることが多いのですが、実は、そこに落とし穴がある。
どういうことかというと、話し言葉では短縮や省略、あるいは文法から逸脱した文も多く、どういう構造なのかがわかりにくいので、読者は定型句として覚えてしまっています。一方、会話のなかには、文の中にまた文が入っている、複文と呼ばれる複雑な文も出てきます。それは丸暗記しても使えません。文構造をわかった上で、その覚えた文をもとに、単語を置き換えて、また違った文を作るという力をつけなければ、自分の思いを伝えることはできません。
ですから覚えてしまえばいい文と、構造を理解して単語を入れ替えることで違う文にしていくという、双方の学習が必要なのですが、わりあい後者のほうを保証できていないことが多い。そこを活用できるように工夫した点が、本書の一つの特徴だと思います。中1、中2の英語は、英文構造の基礎がすべて含まれていますが、それらは木で言うと幹と枝であり、細かいルールと語句という葉っぱに覆われてしまっている教科書を手にすると、幹や枝が見えなくなってしまいます。本書では、簡単そうにみえて実は理解していなかった中学英語の全容を知ることで、ほとんどのことは言えるということを知っていただくように工夫しました。
例えば、「誰が」「どうする」「何を」「どのように」「どこ」「いつ」という語順がわかると、“I do my English homework with a new dictionary in my room after dinner.”という一つの典型的な語順の文ができあがります。単語は14個もありますが、実はこれで中1レベル。しかも、6つの要素の中で一番単語が多いのはwith a new dictionaryなので、たった4語です。つまり、一つ一つの構成要素はだいたい1語から4語ぐらいまでと思えば、さほど難しくない。でも、それを正しく並べる順番を知らなければぐちゃぐちゃになってしまいます。

文法の魅力にはまった学生たちは、おもしろくてたまらないと言います。文法学習のおいしい部分を、先生たちが全部、解説してしまうからつまらなくなる。

そういうことは、学校の英語教育では行われていないのですか?

ほとんど行われてきませんでしたし、今も、きちんと行なっている学校は数少ないと思います。英語の語順について系統立てて「幹」の部分を解説した語学書もほとんどなく、「枝葉」の文法ばかり学習させられるから、文法嫌いが多くなるのです。でも、文法は、実は非常に楽しいものです。文法の魅力にはまった学生たちは、おもしろくてたまらないと言います。文法学習のおいしい部分を、先生たちが全部、解説してしまうからつまらなくなる。映画を観て、どこがおもしろかったか説明するのに等しくて、聞いてるほうは全然おもしろくないじゃないですか。
生徒がそのおもしろさに気づくように仕向けるのが指導者の役割・技術です。「わかった! こういう構造だったのか」と感じてもらうことが大切です。

気づくことで、楽しさを体得していくんですね?

語学もスポーツと同じ。監督が黒板にプレーを説明して、選手がメモをとって終わりでは絶対に伸びません。練習の意味や狙いを解説したら、あとは練習あるのみ。練習するなかで力をつけていき、できるようになると楽しい。そのためには、たっぷり練習しなければいけない。ですから、練習が楽しくて、楽しい練習をするなかで伸びていく、この二つがかみ合わなければなりません。先生がすべてを教えてしまうことは、「気づき」につながりませんし、練習しなければ伸びていくこともない。ノートをとるだけでは、語学の楽しさはわかりませんし、力もつきません。
大切なことは、もっと知りたいという気持ちにさせること。そのためには、「わかる」ということが絶対必要条件です。本書をつくるときも次のページを読みたいという気持ちになってもらえるようなつくりを心がけました。

先生は、どうしてそれに気づかれたのですか?

僕は英語が得意じゃなかったので、とにかく楽をして点数を取るための近道を探しました。それで発見したのが、英語には並べる順番があるということと、文字の読み方にはルールがあるということ。それに気がついて、高校ぐらいから英文法に凝りはじめ、研究を進めていきました。そうして会得したノウハウが、本書にたっぷり入っています。
まず、英文の構造を図式化しました。語順の一つ一つの構成要素をわかりやすくカード式にくくっています。そのカードのなかに1語〜4ないし5語の単語が並んでいますが、どんな長い文でも、「なんだ、こういう構造になっていたのか!」ということが一目瞭然。一つの意味をなす語句のかたまりが数個、決められた順序で並んでいるんだということが理解できるようになっています。
ですから、最初に語順を覚えてしまえば、あとはその順に何語ずつか入れていけばいい。おそらく、中高の6年、大学でも教養で2年は英語を勉強してきて、たくさんの語句が頭の英語の部屋に散乱した状態で詰め込まれているはずです。そこに収納箱を置いていき、どの収納箱に何を入れたらいいかを確認します。そして、収納箱ごとに語句を整理したら、最初の収納箱から順番に語句を1個ずつ取り出していくと、実は文ができる。その収納箱の位置こそが英語の語順です。動詞や代名詞のように、そこから取り出したものを多少変化させなければならないこともありますが、それは重要度としてはトップランクではなく、文法のなかで一番大切なのは、収納箱の並べ方を知ることです。

最初から完璧を求めなくてもいい、多少間違っても通じればいい、でOKです。正確な英語を使えるようになるには、段階を経なければいけません。

収納箱を順番に並べました。その中に入れるものは?

語句です。語句を増やすとき大切なことは、単語練習で覚えるのではなく、文の中で覚えること。僕は単語のテストをしようとして、中3の生徒に「単語なんか前後関係で意味が変わってくるものだから、文で出してよ」と叱られたことがあります。たしかに、文を暗記するなかで単語を覚え、教科書やその他の教材に載っている良質の文章をたくさん音読、暗記することは有効です。
語順を知ったうえで、語句の入れ替え作業をしていくと新しい文がいくらでも作り出せます。語順通りに並べれば意味は通りますから。例えば、“My father teaches economics to adults who retired from work at a college in Tokyo.”と言いたいとき、この中の、名詞と動詞、形容詞だけをピックアップして“Father teach economy adult retire college Tokyo”と並べただけでも、「あなたのお父さんは、東京の大学で退職した大人の方に経済かなんか教えているの?」と想像がつきます。ところが、”My father retired adults teach〜”のように順番が変わると、「お父さんがリタイアしたの? 大人の人が教えるの?」と訳がわからなくなってしまいます。このように、骨組みにあたる名詞と動詞と形容詞だけでも語順通りにつなげれば意味は通ります。前置詞や冠詞、その他の品詞は、後で肉付けをしていくつもりで、最初は多少間違っても通じればいいぐらいでけっこう。正確な英語というのは段階を経なければいけないのに、最初から完璧を求める人が多く、やり直し英語の人もそこへ行きがちです。
まずは、大元の語順を知ること、知った後で文を覚える、それをたっぷり音読する。こうすると、“口”でも“目”でも“耳”でも覚えることになり、飛躍的に単語が増えていきます。それが知らないうちに収納箱にものが増えていく瞬間です。ですから、意味がわかったうえでの音読は非常に大事。音読した後で、暗記した文章を書いてみます。書けなかったもの、間違ったものについて、綴り練習すればいいのです。

黙読でわかったつもりになると、なかなか声に出すことをしません。

音読というのは非常に効果的な学習法です。黙読は、目と脳だけですが、先ほど言ったように、音読は目と脳に加えて、口、耳が働くので、効果が倍になる。ラジオの英語講座でも、CDの英語教材でも、とにかく聞いて、なるべく理解しようとして、聞こえたとおりにすかさず真似をして言ってみる。この真似をして口に出す「シャドーイング」というのも一つの音読です。シャドーイングをすると、耳に入ってきた音を口に出すという作業は限界があることが分かり、自然に意味も考えるようになりますし、聞きとれなくて飛ばしてしまった部分を、あとでテキストを見て確認すると、「こんなことを言ってたのか」「この単語だったのか」など、いろいろなことが文字情報として入ってくる。そのあとでもう1回聞いてみると、聞こえ方がまるで違います。それが終わってから、もう1回シャドーイングをするとほとんど言えるようになります。次に、テキストの和訳を見て英文を復活させると、ほとんど体に入ってくる。このシリーズでは、3冊に分けて、このプロセスが自然に身につくように構成されています。

最後に、本書でやり直し英語に取り組む人に、一言エールをお願いします。

この本で一番強調しているのは、英語の語順を知れば、英語の学習はかなり成功に近づくということです。そのため、英文構造を解説する文法中心の部分があります。実際に、そんなことを言うのかなと感じる部分もあるかもしれません。たしかに実際の会話では省略される部分も、全体の語順を理解するために必要なので載せています。
例えば、“Does George use a computer when he writes a report?”という質問に対して、“Yes.”だけで答えていては、実は力がつかないのです。“Yes, he does.”のほうが力はつく。でも、もっと力がつくのは、“Yes, he does use a computer .”です。さらに “Yes, he does use a computer when he writes a report.”と言える人のほうが、文構造を理解している証拠であり、実は最も力がつく。それが完璧にできた後で、カットして“Yes, he does.”とか、“Yes.”と答えるなら全く問題ありません。会話重視のテキストでは、省略や短縮がごく普通なので、それでいいと思ってしまいます。でも、応用力は基礎の上に成り立つもの。基礎練習ナシのスポーツがありえないように、英語学習もまず基礎である英語の構造の全体像を知ったうえで応用していく必要があると思います。遠回りのように思えるかもしれませんが、後々、力がついてくるから大丈夫と信じてやってみてください。

プロフィール
田尻悟郎

島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒。関西大学外国語学部教授。長年にわたり公立中学で英語教師を勤め、生徒思いで熱く楽しい授業の探求が評価され、2001年に(財)語学教育研究所よりパーマー賞を受賞。中学英語の教科書(ONE WORLD)の執筆も務めるなど、英語教育に幅広く携わる。著書に、『自己表現お助けブック』『楽しいフォニックス』『英語授業改革論』(以上教育出版)、『チャンツで楽習! 決定版』(共著、NHK出版)などがある。

書籍
ライブ講義シリーズ 英文法 これが最後のやり直し!
CD3枚付き。ライブ講義CDを聴くだけの手ぶら学習。
¥1,200(税込¥1,320