楽しいストーリーは、印象に残ります。すると、ストックが増えます。ストックが増えると、使いたくなる。そういうサイクルになっているわけです。

大人のためのやり直し英語というジャンルがあります。それだけ挫折する人が多いということでもありますが、それを解消するのが本シリーズの狙いです。

このシリーズの特徴は、なんといってもCDを聞きながらのマンツーマン式出前授業のようなかたちで講義をお届けすることです。“文法”、“リスニング”、そして、私が担当する“英会話”と、英語学習において一番重要なところが3本立てで同時発売になるという企画で、内容も今までにない斬新なものと自負しています。
言葉の学習で大事なのは、まず、構造を知ること。構造を知らないと、文がつくれません。そして、聞いたことが理解できないと、コミュニケーションが成り立ちません。発音も含めて、相手の言ったことが理解できて、そして自分の言いたいことを伝えられる。そのためには、構造をしっかり学んで、聞く力をつけて、そして身につけたものを発信していく。そのための3本立てになっています。
私が担当した会話で心がけたのは、まず、ストーリーを楽しんでいただくこと。そのために、一生懸命に楽しいストーリーをつくりました。スト−リーを楽しみながら、その流れのなかで、文法やボキャブラリー、発音などといったすべての要素を覚えられるように工夫しています。楽しいストーリーは、印象に残ります。すると、ストックが増えます。ストックが増えると、使いたくなる。そういうサイクルになっているわけです。
一番大事なのは、“楽しむ”こと。それが、上達には欠かせないポイントだからです。楽しみながら、どんどん聞き流してください。“わかりやすく”という点も心がけているので、きっと楽しんでいただけると思います。

楽しめるストーリー仕立ての工夫とは?

人生の楽しみも苦しみも、それなりに味わってきた大人の方々がメインターゲットです。そういう年代層の人々は、いったいどういうことに興味を持っているのか、リサーチを重ね、リアリティをもって共感できる人間像を描いたつもりです。
設定の一端をご紹介すると、主人公は20代後半を中心にした男女各2人。1年間という期限付きながら、庭の草木に水やりをするといった雑用もこなす条件で、大邸宅の4つのベッドルームを月3万円で貸しましょうというところからストーリーは始まります。一流大学を出て外資系の大企業に勤めるエリート女性。高校時代にモデルをしていたが今は仕事がなく、ファッション雑誌の編集者を目指すも挫折して、今後の生き方に悩む女性。父親の経営する会社に勤めながらも、人生にはっきりとした目標を見いだせずにいる男性。
アルバイトをしながらショービジネスの世界を目指す男性。この4人の人間模様をオムニバス形式で描いていきます。

身近ではあるけれども、けっこう込み入った話になりそうです。中学英語レベルで話せるものでしょうか?

例えば、テクニカルタームが飛び交うような映画は別にして、日常生活を描いたアメリカ映画で使われている言葉の8割から9割近くが中学生レベルの英語という調査結果があります。特に、話し言葉の場合は、いわゆるフォーマルで堅苦しい文章を書くときにしか必要ないような文法は出てこないので、書き言葉ほど難しくありません。そういう意味で、どういう生活のどういう場面を描くにしろ、若干のボキャブラリー以外は、中学英語で、ほぼ言いつくせるレベルにあると思います。

ストックをリアルタイムで出せるようになるには、何が必要かというと、いわゆる勉強ではなくて、“練習”です。

楽しく聞き流すことが重要だとおっしゃいましたが、リスニングではなく、会話ご担当の立場として、なぜ、それが重要なのでしょう?

聞き流すということは、脳の中にたくさんの英語を流してやること。楽しく聞き流すと頭の中に残っていきますが、つまらなく聞くとただの垂れ流しで全部流れていってしまいます。“聞き流し”というのは、覚えようとしなくていい、楽しめばいいという意味。覚えよう、暗記しようとして聞くと、その時点でストレスになり、負担になってしまいますからね。逆に、楽しいと、聞き流しているのに記憶に残っていく。先ほども言ったように、人間というのは、ある程度ストックが増えてくると、出したくなるもの。だから、会話上達のためにはリスニングを多量に行って、楽しんだ分だけ、溜めていく、すると出したくなる。このサイクルが欠かせないわけです。
 もう一つ。会話は、音で運んでいくものです。しかもリアルタイムで運んでいきます。たしかにたくさん楽しく聞き流すことで、自然にストックは積みあがっていきますが、それだけでは、なかなか喋れるようにはなりません。そのストックをリアルタイムで出せるようになるには、何が必要かというと、いわゆる勉強ではなくて、“練習”です。
例えば、“I am walking in the park.”という基本文を与えて、主語を変える練習をします。“I”を“he”に変えると、“He is walking in the park.”。次、Tom →“Tom is walking in the park.”。weにすると →“We are walking in the park.”。 they にしたら? Tom & Maryにしたら? こういう10本ノック、20本ノックの練習をしていただきます。「youになったら、be動詞はなんだっけ?」と一瞬でも考えるレベルでは喋れるとはいえません。何故ならば、コミュニケーションはリアルタイムですから。
外国語として英語を勉強する人間にとって必要なのは、反射神経です。“I am walking in the park.”の主語がHeになった瞬間に、反射的にisと出てくる、この反射神経を鍛えると、話せる量が格段に増えます。
今度は、歩いている場所を変えてみる。“in the park”を、駅前にすると、“I am walking in front of the station. ”。次、自分の家の前→“I am walking in front of my house.”。家の中→“I am walking in my house.”。じゃ、階段を歩いて登ります→“I am walking up the stairs.”。walkingをrunningに変えるなど、どこを入れ替えても、パッと口をついて言葉が出てくる練習をたくさんこなします。本当は1000本ノックといきたいところですが、何ページあっても足りませんので、せめてもの20本ノックです。このノック練習を一切しないのと、20本でもノック練習をした後では、言葉の出方が格段に違います。
“楽しんで聞き流す”プラス“ノック練習”、これがリアルタイムのコミュニケーションに耐えるスピーキング力をつけるコツだと思います。

頭ではわかりきっていることも、CDを聞いているだけではダメで、実際に自分で口に出して練習することが大事なのですね。

出した量だけ上達します。ですから、本書の構成として、会話部分を楽しんでいただき、文法のポイント、ボキャブラリーのポイントまでは聞き流していただいてけっこうです。そうすると、うっすらとでも大事なところが自然に頭に残ります。その後で、AさんとBさんの対話のBさん役の練習をしていただきます。この段階では、まだ、頭でっかちのレベルで、自然に口をついて出てくるまではいきません。この後のノック練習を行うことによって、なんとなく頭に入っていたものが反射的に出てくるようになるのです。

日本人として生まれてきた以上、羞恥心を捨てることはできないと思ったほうがいい。そういう日本人には、本書のような教材で、一人で勉強するのが実に向いていると思います。

何度もやり直そうとして挫折する。一番の原因はどこにあると思われますか?

皆さん、やらないで挫折していると思います。私が教えている大学のクラスでアンケートをとると、全員、英会話がペラペラになりたいと望んでいます。でも、そういう学生が私の部屋に入ってきて、ネイティブのアシスタントがいると、恥ずかしがって帰ってしまいます。それではうまくなりません。ブロークンだろうがなんだろうが、使って直されて、恥をかくほうが上達します。でも、日本人は、恥をかけないんです。
よく物怖じせずに話している人の英語を聞いて、あんなブロークンでいいのかと思ったことはありませんか? そう思っている自分は、そこに参加していない自分です。そういう人は、批評家としてはすばらしいかもしれません。でも、批評家というのは実践がうまいとは限りません。
カリフォルニア大学の方が、カリフォルニア州に引っ越してきた韓国、中国、日本の家族の子女が現地の学校に入ってからの読み・書き・話す言語能力の上達度を追跡調査したことがあります。書く能力のテストでは、日本人が1位か2位なのに、話す力に関してはダントツのビリ。日本人はクラスの一番後ろの席で誰とも口をきかずに半年も引きこもり状態というのに対して、中国人は、“Hello!”と“Good morning!”しか知らなくても、アメリカ人を押しのけてでも喋る。

ブロークンでもなんでも話す、恥ずかしいという気持ちを捨てる、そのためにはどうしたらいいのでしょうか?

それは、たいがいの日本人にはできません。私自身も、挫折を何十回も繰り返し、羞恥心を取り除こうと、いろいろなことをしてきましたが、日本人として生まれてきた以上、それはできないと思ったほうがいい。ちょっとしか勉強していないのに、ネイティブがたくさんいるところに行って体当たりでうまくなろうとする、そんな発想の日本人は、ほとんどいません。非常に大雑把な言い方ですが、恥をかかないように徹底的に練習して、かなり上達してからでないと、ネイティブの前で話そうとしない、それが日本人です。
そういう日本人には、本書のような教材で、一人で勉強するのが実に向いていると思います。ピッチングマシーン相手に、一人でノック練習するようなものですから、変に意識することもなければ緊張もしないですみます。
目で読むだけでなく、小さな声でも囁き声でもいいから、とにかく口を動かして練習すること。実際に口に出す量に比例して喋れるようになります。
そのようにして、ある程度、準備が整ってからかく恥なら、不思議とたいして傷つかないものなのです。恥ずかしさのレベルよりも英語力が下回っていると口を噤んでしまいますが、恥ずかしさをちょっと超えるレベルまで練習成果を上げたと思うと、逆に日本人は英語を使ってみたくなるはずです。そこまでいけばしめたもの。楽しく聞き流す、プラス、ノック練習で、今度こそ、あなたも英会話をマスター!

プロフィール
高本裕迅
白百合女子大学文学部教授。専門は音声学、音韻論、言語習得論。1999年度、ハワイ大学客員研究員。日本英語音声学会理事。日本LL教育センター評議員。ELEC(英語教育協議会)評議員。主な著書に、中学校英語教科書『New Horizon』(共著、東京書籍)、『英語音声指導ハンドブック』(共著、東京書籍)『英語は覚えるだけじゃ話せない! 英会話7つのコツ』(旺文社)
書籍
ライブ講義シリーズ 英会話 これが最後のやり直し!
CD3枚付き。ライブ講義CDを聴くだけの手ぶら学習。
¥1,200(税込¥1,320