マナーというのは、「相手ありき」というところがスタートです。

21歳のとき、マナー講師になりたいという夢を抱きます。何故、マナー講師だったのですか?

就職活動中に受けた面接講座の先生が、当時53歳だったのですが、とても素敵な方で、一目惚れをしてしまいました。20年前の50代の女性というと、世間的にはけっこうご高齢という印象です。でも、その先生は容姿端麗なばかりでなく、若々しくて姿勢も美しく、内面的な充実ぶりを感じさせるお優しい方だったんですね。先生のような仕事をしていれば、自分も50歳になったとき、こんな素敵な女性になれるんじゃないかと思い込んでしまったのがきっかけです。

その憧れの先生もそうでしたが、航空会社の客室乗務員からマナー講師になるケースが多かったので、まずは客室乗務員になるのが先決だと思い、JALはじめすべての航空会社の入社試験を受けました。ところが、どこにもご縁がなくて惨敗。バブル絶頂期だったにもかかわらず、私は一人3月になっても就職活動をしていた落ちこぼれでした。どうにも就職先が決まらず、当時通っていたスチュワーデススクールの校長の勧めで、国会議員の秘書として働きはじめます。でも、マナー講師の夢を諦めたわけではないので、5年ほど務めた後、その憧れの先生の教室に通いはじめ、マナー全般を教えていただくことになりました。

先生のお考えになるマナーとは何でしょう?

マナーというのは、「相手ありき」というところがスタートです。それで最終的にはプラスの評価をされることもあるでしょうし、ないかもしれない。でも、自分は評価されなくても相手が喜んでくだされば、それで幸せを感じることができる心を持っていると、人生ってお金とか関係なく、みんなが幸せを手にすることができると思っています。

でも、そういう考えは、日本ではなかなか受け入れてもらえませんでした。それで31歳のとき、マナーの本場といわれるイギリスに行ったんです。海外ではいったい何をもってマナーといっているのか、それを徹底的にリサーチしました。みんながみんな口をそろえて言うことは、「マナーって相手の立場に立つことでしょ」。

私の考えは間違っていなかったと自信を持ったところで日本に戻ってきて、そのことを伝えはじめたところ、ちょうど平成不況で「こころ」を重視しはじめた時期と重なったんですね。おかげで、タイミングよく最初の本『オックスフォード流 一流になる人のビジネスマナーの本』を出版することができました。それは、自分を美しくみせるための「かたち」を説いた今までのマナー本を否定するような内容でしたから、かなり勇気が要りましたが、読者からは私もそう思っていたという声がかなり多かったんですね。

本書を書くうえで心がけたのは、何故そういうふうにしちゃいけないかという理由を入れるようにしたこと

マナーを身につけることによって、何か変わったと思われることは?

マナーの5原則である「表情」、「態度」、「挨拶」、「身だしなみ」、「言葉使い」と、マナーの本質である「相手を思いやる」ことを常に意識して生きてきました。すると、20代の頃の私に対する第一印象で多かった「ツンとして嫌な女」という声が聞かれなくなってきました。ですから、よく人間は変わらないと言われますが、変われるんです。変われるか変われないかは、ご本人の意識次第。
例えば、私自身、今でも心がけていることで皆様にもお勧めするのは鏡を活用すること。20代一人暮らしでワンルームに住んでいた頃から、台所の前に鏡を置いて「私ってこんな顔でお皿洗ってるんだ」とか、当時はメールなんてありませんでしたから固定電話で友達と話すときも、鏡で「こんな感じで人と話してるんだ」ということを常に確認していました。それで、これはいかんという思いから、意識して改善するようにしたのです。
たしかに眼は口ほどにモノを言います。よく笑顔をつくるために口角を上げろと言われますが、口角を上げても眼が微笑んでいないといい表情にはなりません。私は鼻から下を隠して行う眼の表情訓練をお勧めしています。「こころ」を微笑ませておくようにすると、自然といい表情になるんですよ。その人の内面が顔に表れる様子を表情というわけですから、これを意識すれば、決して作り笑顔にはなりません。

「かたち」を知っていることも大事だけれど、やはり「こころ」が大事であり、相手の立場に立つということが根底になければダメということですね。

そうです。ただ、例えばお悔やみのマナーでも、いわゆる「かたち」を知らないよりも知っていたほうがよくて、いざというときにどうすればいいんだろうとオドオドしてしまうと、お悔やみの気持ちが伝えられなくなってしまいます。
ですから、本書を書くうえで心がけたのは、何故そういうふうにしちゃいけないかという理由を入れるようにしたこと。表面だけ整えればいいわけではありません、本質を見極めれば、自ずとマナーの「こころ」も「かたち」もついてきます。読者の立場に立って考えたとき、理由をお伝えすれば、いざというときにもハッと気づいて忘れずにすむと思ったのです。
2009年1月放送予定のNHKのスペシャルドラマ『白洲次郎』で、マナー監修をさせていただいているのですが、白洲正子役の女優・中谷美紀さんも「こころ」を重視なさった上で、美しい「かたち」を表現なさる、素晴らしいマナー美人です。やはり、内面も外面も美しい女性は「こころ」相手に対する思いやりを大切になさっているのだな、とあらためて実感させていただいています。

マナー本というのは必要に迫られて慌てて読むことが多いと思います。とりあえず冠婚葬祭の「婚」の部分だけを知りたい場合は、おそらくそこしか読みません。でも、本書のように「かたち」だけでなく、「こころ」とその背景にまで踏み込んだ書き方をしてあると、今すぐ必要ないものまで面白く読めてしまいます。

ありがとうございます。それだけ今回の企画は思い入れが深くて、自著の中でも一番好きな本。今まではビジネスマナー関連の本が多かったので、どうしても読者層が限られていました。その点、本書のターゲットは働く女性に限りません。より多くの女性の皆さんが暮らしていく上で興味や関心を持ってもらえるように、デートなどのシーンも想定しました。今は皆さん、外見は申し分ないくらい磨いているので、あとはマナー力に磨きをかけていただきたい。そしてみんなにハッピーになってほしいという思いをこめて書かせていただきました。

いつも感謝の気持ちと、謙虚な気持ち、そして素直な気持ちをもって生き続けてほしいですね。

マナー講師としての先生の目でご覧になって、ここはもう少しなんとかすればいいのにと感じることで、最も多く、しかも重要なマナーのポイントは?

「ものの言い方」だと思います。「お礼を言う」、「挨拶をする」、これは人間関係の基本だと思うのですが、こんな簡単なことがないがしろにされています。やってもらって当たり前、「ありがとうございます」が言えない。すれ違いざまにちょっと肩がぶつかったりしたときにも、「ごめんなさい」が言えない。相手を思いやる気持ちがあれば、これらは自然に口をついて出てくるものだと思うのです。
他人との関係ばかりでなく、親しい友人、家族間でも同じ。親しき中にこそ礼儀ありというふうにしたいものですね。
私は36歳で結婚したのですが、夕食時にはその日おこなった研修の内容を話題にしていました。また、「ちょっと新聞とってきてもらえる?」と頼み事をする場合も、必ず「疲れてるところ悪いんだけど」と「クッション言葉」を付けるようにします。この一言があるかないかの差はとても大きいと思います。そのうち主人も自然に変わってきまして、ふと気づいたら、会社でしょっちゅう「恐れ入ります」と言って頭を下げることが多くなったと笑っていました。部下もいる年代で、隣の人もライバルという競争社会にいれば、なかなか素直に謝ったり、頭を下げたりしにくいものですが、そういうふうにしはじめてから、すごくいい人間関係が築け、仕事もスムーズにいっているそうです。

マナーサロンも主宰してらっしゃいますが、一番需要が多いレッスンは何ですか?

テーブルマナーです。レストランや日本料理店で、実際にお食事をしながらのレッスンになります。学生のあいだはあまり気になさらなくても、社会に出るとビジネスがらみの会食や、デートやお見合いなど緊張した場面で食事をする機会も増えますので、恥をかかないように基本を押さえておきたいと思われるのでしょう。
もう一つ大人気なのが、プリンセス講座。実際にパーティドレスを着て、ティアラをつけて、メイクも華やかにして、その状態で立ち居振る舞いを学ぶ講座です。この講座の狙いは、例えば姿勢をよくしましょうとか、笑顔でいましょうとか、どんなに口で伝えるよりもはるかに効果的だからです。ウエストラインが引き締まったドレス、デコルテの開いたドレスなど、好きなドレスを選んでいただいて、ティアラをのせると、皆さん、自然と姿勢がよくなりますし、笑顔になります。生徒さん同士で「かわいい!」。そういったプラスの言葉のかけあいで、また一層かわいくなるんです。
このプリンセス講座がテレビで紹介されたのを見て、70代の方がいらしたことがあるんです。お母様の介護に明け暮れるばかりの毎日では、自分自身もまいってしまう。だから月に一度、自分の好きなことをしてもいい一日を決めていらっしゃるんですって。それで今月はプリンセス講座を受講してリフレッシュして帰るとおっしゃって。ほんとにうれしかったですね。いくつになっても外見も内面も輝いていたいという思いは、女性にとって共通のことなんだなあと改めて感じました。
外見が明るくなると内面も明るくなります。そして他人から褒められることは、とても効果的な美の特効薬になります。 そういうサロンでの皆さんの反応も踏まえて、何が必要かを、今回の本に盛り込んだつもりです。

今後の目標は?

企業の研修会での講演は人数が限られていますし、本を読むより実際に目で見て確かめながら会得したいという方のためにDVDを作りたいですね。自社サロン用や大学の教材、企業の社員研修用DVDはあるのですが、一般の方向けに書店で市販できるものを。それと、マナーが学べるドラマや映画なども、今、私の傍にいてくれる最高のスタッフたちと一緒に手がけてみたいですね。 マナーを伝えることによって、いつも笑顔でトラブルのない社会にしたいという最終目的があるんです。みんながみんな相手のことを思いやることができれば、トラブルは起きません。そのための大事なキーワードが、「ありがとう」と「ごめんなさい」。そして、いつも感謝の気持ちと、謙虚な気持ち、そして素直な気持ちをもって生き続けてほしいですね。 たまたま、この本の原稿を書き終えたとき、島と島が手をつないでいる美しい海の写真を、いつも私をハッピーにして下さる素敵な方が贈って下さったんです。その島たちのように、みんなが手をつなぎあえる愛ある世界になればいいなと思っています。

写真:竹中圭樹

プロフィール
西出博子(にしで・ひろこ)
英国法人WitH Ltd.日本支社代表・English Rose House 主宰。大妻女子大学文学部 国文学科(現 日本文学科)卒業。国会議員、政治経済ジャーナリストの秘書を経て、マナー講師として独立する。カリスママナー講師としてTVやラジオ、雑誌などで幅広く活躍するだけでなく、企業のビジネスマナー研修においても高い評価を得ている。マナーに関する著書も多数。また、マナー分野ではただ一人、DSソフト「私のハッピーマナーブック」(TAITO)の監修も務め話題に。
書籍
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マナーのある女性は、美しい
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