詳しい説明を受けたり、ヒアリングをしたりしているうちに「これは、すごいことが起きているな」と感じました。

セカンドライフに出会ったのは、いつ頃、どんなきっかけだったのですか?

仕事柄、時々ネット系のブログなどを見て情報収集しているんですが、おととし(2005年)の後半に「セカンドライフという仮想空間があって面白い」というのを目にして、とりあえず、中をのぞいてみたんです。
でも、そのときは正直言って、何が面白いのかよくわからなかったですね。どこへ行っても人があまりいませんでしたし、「ネット上の仮想空間で人が動いているんだな」くらいにしか思いませんでした。誰か仲間と一緒だったら、もう少し印象が違っていたかもしれませんが、ひとりでポンと入っただけだったので、わけがわからず、ちょっとひいてしまった感じでした。

それが、どうしてセカンドライフと深い関わりを持つようになったのでしょう?

去年(2006年)、アメリカのシリコンバレーにあるベンチャー企業から「日本に進出したい会社があるんだけれど、手伝ってくれないか」と依頼されたんです。詳しく話を聞いてみると、それがセカンドライフだったんですよ。一瞬「あのセカンドライフに出資したの?」と思いましたね。私のセカンドライフの第一印象は「面白くない」だったし、それを日本へ持ってきて成功させるのはすごく大変なことだろうと。その一方で「ひとりでのぞいたときには何が面白いのかわからなかったけれど、ベンチャー企業が出資したということは、それなりの魅力や可能性があるに違いない。それはいったい何なのだろう?」とも思いました。そのときにはじめて、セカンドライフに興味を持ったんです。
その後、セカンドライフを開発し、運営している、リンデンラボ社へ行って、詳しい説明を受けたり、ヒアリングをしたりしているうちに「これは、すごいことが起きているな」と感じました。

何が“すごい”と?

この本にも書きましたが、セカンドライフの特徴は4つあって、一つめは、ゲームではないということです。ユーザーが自分たちで作り上げる参加型の世界であり、簡単なルールさえ守れば、何でも自由にできるんです。二つめは、クリエイターのためのメタバース(3Dで作られた仮想空間)であることです。ユーザーは、セカンドライフのなかであらゆるものを作り出すことができ、その著作権はユーザー自身が持ちます。自分で物を作り、その物に自分で値段をつけて売れるというのは、バーチャルではあるけれど流通が変わる、インフラ的なものを変えていくだろうと思いますね。三つめは、三次元映像の表現を使った、今までにない新しいコミュニケーションツールであるということです。セカンドライフを使えば、離れたところにいる人同士が空間を共有し、共通の体験をすることで感動も共有できます。四つめは、セカンドライフ内の架空通貨「リンデンドル」が現実世界の米ドルに換金でき、いろいろなビジネスチャンスがあるという点です。
このようなセカンドライフの魅力を知って「うちの学生に教えたら面白いのではないか?」と思ったのがきっかけで、デジタルハリウッド大学院にセカンドライフ研究室を設立し、本格的にセカンドライフ内の調査、研究をスタートさせました。

現実世界ではなかなか体験できない童心に返ったような楽しさを体験

セカンドライフには、本当に様々な可能性があるんですね。本にも書かれていますが、セカンドライフで成功するために絶対欠かせないのが、コミュニケーションツールとしての特性を活かすことのようですが……。

実は、最初からコミュニケーションツールとして注目していたわけではなくて、はじめはインフラとしての特性、つまりハードウエア的なすごさにひかれていました。ところが、セカンドライフに対する価値観が大きく変わった転機が2回ほどあったんです。
1回目は、今年(2007年)のはじめ頃でした。調査のために、セカンドライフに入っていたところ、変な外国人アバターがやってきて、突然、素っ裸で周囲に乱射しはじめたんです。それを見ていた住人たちは「困ったわね」「こういう悪い人はリンデンラボ社に連絡しなくちゃ」と、真剣に対応策を相談していました。でも、私は調査のために入っているので、あえてその会話には参加せず「なるほど。セカンドライフではこんなことも起こるんだ」と、その状況を傍観していたんですね。結局、その変な外国人アバターは、その土地のオーナーによって立ち入り禁止になりました。ところが、その後も住人たちの様子を見ていたら、今度はみんなが私を見て「この人も何も話さず、ボーッと立っているだけでおかしいやつだ。立ち入り禁止にしたほうがいいんじゃないか」と話し始めたんです。これはまずいと思って「私はセカンドライフの研究をしている者です」と事情を話して、立ち入り禁止はまぬかれました。
このときに「この世界ではコミュニケーションをとらないと、変なやつだと思われるんだな」と実感したんですね。この経験によって、セカンドライフにおけるコミュニケーション、コミュニティというものに着目するようになったんです。

2回目の転機は、今年の3月くらいに、花見のイベントに参加したことですね。いつものように調査目的でセカンドライフをウロウロしていたら、何か一生懸命、場所作りをしている人たちがいたんです。「何をしているんですか?」と話しかけたら、「今晩、みんなで花見をするんですよ。ぜひ来てください」と招待されました。そこで参加してみると、みんな思い思いの服を着て、ダンスをして、すごく盛り上がって……。
現実世界ではなかなか体験できない童心に返ったような楽しさを体験して「これがセカンドライフの本当の面白さだ」と気づいたんです。物が作れるとか、家が建てられるといった、目に見えるところだけでなく、みんなで文化や雰囲気を作っていく世界であり、そこが本当の楽しさだと。以来、イベントに参加したり、支援したりするようになりました。どうすればセカンドライフをみんなで楽しめる世界にできるかを追求してきたんです。

コミュニケーションをとり、自分の存在価値を高めていけば、そこにビジネスチャンスが生まれます

セカンドライフを始めて、先生ご自身に何か変化はありましたか?

私は、もともと人間関係が苦手で、積極的に人づきあいをするほうではありませんでした。目的がないと何を話していいかわからず、いつも聞く側に回るタイプだったんです。ところが、セカンドライフを始めていろいろな人と話をするようになり、何事においても人間関係が基本だとつくづく感じるようになりました。セカンドライフは「こんにちは」と自分から話しかけるのが当たり前の世界。今ではセカンドライフに400〜500人の友だちがいます。セカンドライフで知り合った人と実際に会ったり、自分からいろんなところへ行ってコミュニケーションをとったりもしていますね。
最近も、セカンドライフのなかのコミュニティのパワーのすごさにびっくりしたことがあったんですよ。調査のために、セカンドライフ内でアンケートを実施したんですが、何と4日で1000人のデータが集まったんです。このパワーは、まさにセカンドライフ内のコミュニティの力。ネットワークによってアンケート実施の情報が一気に広まり、「みんながやっているなら私も……」という信頼関係が原動力になったと思いますね。4日で1000人のアンケート、しかも一人当たり160問にも及ぶ回答を得るなんて、路上で紙を配っていたらとても無理ですし、ウェブを使っても不可能でしょう? しかも、アンケートに協力した人は謝礼がもらえるし、調査する側は短期間で大量のデータが集められるし、みんながハッピーになれる仕組みなんです。

そのすごさや楽しさは、セカンドライフの中に入って、実際に体験してみないとわからないわけですね。

セカンドライフの魅力というのは、言葉では説明しにくいところもあるので、興味を持ったら、とにかく中に入って、遊んで、友だちをいっぱい作ってほしいですね。セカンドライフ内でコミュニケーションをとり、自分の存在価値を高めていけば、そこにビジネスチャンスが生まれます。
スタートしたばかりのセカンドライフは、今、新しい社会を作っているところです。社会を作るには時間がかかります。ビジネスで成功したいと思っている人は「手っ取り早く儲けよう」という考えではなく、もっと大きな視野でセカンドライフをとらえ、焦らずに自分のタイミングで参入するといいと思いますね。キーワードは「スロービジネス」。個人でも企業でも、すでにセカンドライフに入って、中で楽しんでいる人たちと同じペースで参入することがポイントです。
私の最近のセカンドライフのキャッチフレーズは「みんなで世界を作りませんか?」なんですよ。セカンドライフに携わっていると、新しい世界が作れるかもしれないというワクワク感があるんです。5年後、10年後、セカンドライフが、どのような社会になっているか、私自身とても楽しみです。

プロフィール
三淵啓自 (みつぶち けいじ)
1961年東京生まれ。スタンフォード大学コンピューター数学科修了。米国オムロン社にて人工知能や画像認識の研究に携わり、退社後、米国でベンチャー企業を設立。その後日本で日本ウェブコンセプツを、米国で3U.com 社を設立。ユビキタス情報処理や画像認識システムなど、最先端のWebシステムの開発を手がける。2005年デジタルハリウッド大学デジタルコンテンツ科専任助教授に就任、2006年デジタルハリウッド大学院メディアサイエンス研究所セカンドライフ研究室長に就任、現在に至る。
書籍
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