この本の写真も、ひっそりしている場所や風景に目がいきました。

エッセイに添えられた写真は、ご自身でお撮りになっているんですよね。

はい。大学時代に約1年間だけですが写真部に在籍していました。勉強というほどでもないのですが、そこで一通り技術的なことは教わりました。
基本的には私の写真はアマチュア写真ですが、カメラの性能も良くなっていますからね(笑)。最近は、携帯電話やデジカメで写真を撮って、ブログなどで発表している人もたくさんいるだけに、写真はわりと頑張って撮りました。
マイブームとしての写真撮影は今はちょっと沈静化してきましたが、それでも天気のいい日にはカメラを持ち歩いています。

どういうものに引かれてシャッターを押すことが多いのですか?

よほど近しい間柄でない限りは人物を撮るのがあまり得意ではないこともあり、風景ですね。この本の写真も、ひっそりしている場所や風景に目がいきました。東京に住んで6年目になりますが、ゴチャゴチャせせこましい街が多いので、どうしても広がりのある風景に目がいくような気がします。
それと、いい感じに光が当たっている場所。陽が傾きはじめて落ちるまでのあいだの光が好きなので、そういう時間帯にはわりと張り切って撮ります。逆に、真上に太陽があるときだと写真を撮る意欲が落ちるかもしれません。あとで見返してみると、どうもそういう傾向があるような気がします。

15編のエッセイがおさめられていますが、どれがお気に入りですか?

連載第1回目で力が入っていたこともあってか、まわりの人から好評だったのは最初の「かごの鳥と空の鳥」というエッセイです。個人的な思い入れがあるのは「ばらの花束」、一番好きなのは「夢日記と初夢」です。

連載をこの本にまとめるにあたって、テーマごとのお気に入りセレクションが3点ずつ加筆されています。それがまた興味深い木村ワールドへ誘ってくれているわけですが、雑貨から食べ物、本、レコードなど、ずいぶん多岐にわたっていて、引き出しの多さに驚きます。

テーマが抽象的なものについては、けっこう悩んで3点リストアップしましたが、シンプルなテーマのものはすんなり選べたと思います。
行数の制約などもあって、書く前に調べたことや、すでに知識として身についていることを全部書けるわけではありませんよね。ちょっと大げさにいえば、そういうものを行間にこめたつもりです。

1日に1回は本屋に行きます。行かないとうずうずして、どうしようもなくなるくらい。

3点を選ぶにあたって、何か基準のようなものはあったのですか?

もちろん、自分のなかでは理由づけはあります。たとえば、私がそれを好きになった理由がきちんと思いだせるものとか。なんとなく今の時代のデザインじゃないものとか。

池袋の老舗洋菓子店「タカセ」の缶入りクッキーもそのひとつ?

京都に住んでいたとき、アルバイトをしていた喫茶店に、東郷青児の絵があちこちに飾られていました。彼の絵は私にとって京都の思い出でもある。そういう個人的な思い入れがあるんです。
タカセのクッキー缶は、東郷青児の絵で一部には名高いし、もちろんいい絵でしたから。東郷青児の絵は洋菓子店の包装紙にも使われていますが、クッキー缶のようなかたちで手に入るのは貴重なんです。中身も、昔ながらの製法で作られているような、まっとうなおいしさがある。

3点のなかに、本がたびたび取り上げられています。相当の本好きですね?

一人っ子だったせいか、外で遊ぶより本を読むことが好き。でも学校で書かされる作文などは苦手だったので、書く人になるとは思ってもいませんでした。図書館や本屋で働く人になりたいと考えたことはありましたが。
引っ越し魔なのですが、家の近くには本屋があることが絶対条件ですね。よほどのことがない限り、1日に1回は本屋に行きます。行かないとうずうずして、どうしようもなくなるくらい。きっと、本の仕事以外に自分にできることがそんなにあるとは思えないので、本の周辺にいないと落ち着かないんでしょうね。
いい本に出合ったら単純にいい気持ちになれるし、またそれで自分の仕事を頑張ろうと思います。
そのわりに、読み終わるとすぐ古本屋に売ってしまうので、蔵書は少ないほうです。引っ越しを重視した生活をしてきたので、持ち物は多くしたくない。だから、部屋はまるで学生の下宿みたいです。本とCDと洋服、シンプルというか殺風景。

持ち物は多くないけれど、「ガラスのコップ」集めに熱中していたりするんですね。

身の回りに置くモノにはこだわるほうだと思うのですが、たとえばガラスに関していえば、ベネチアンガラスのように繊細さを追求したようなものには興味がないんです。
形がちょっと無骨だったり、シンプルだったりしても、ガラスだからかわいらしくみえるというか、あまりいじっていない、素材のままのような、上野あたりにある安い立ち飲み屋で出てくる、熱燗を入れても割れない分厚いコップが好きです。単純に「透明」であるだけでもう、すばらしい。
生活用品に関しては、道具本来の目的がストレートに出ているモノが好きですね。

そういう鑑識眼はどこかで養ったのですか?

大学では産業社会学部に在籍していましたが、あまりその学部っぽいことはせず、美学のゼミに入って映画のカメラワークなど視覚的なことを勉強し、卒業してからもグラフィックデザインの専門学校に通いました。中退してしまいましたが…。
でも、絵を描いたり、デザインしたりするより、文章のほうが結局は向いているとわかり、25歳ごろに方向転換しました。

自分なりに頑張って書いているつもりなので、どうぞ読んでみてくださいとは思いますが、押し付けたくはない。

本屋以外のお気に入りの場所は?

いい居酒屋と喫茶店かな。いまは、近くににぎやかな商店街があるので、そこをただ歩くのも好きです。(文筆業は)一人でする仕事なので、中断して表に出たときに誰もいないと寂しいから、人がいっぱいいる街が好きですね。
でも、一人でいても誰かといても居心地のいい場所が、一番好きな場所です。

好きな時間、好きなことは?

親しい人とお酒を飲んでいるとき。お酒はなんでもいけますが、どちらかというと洋酒よりも日本酒や焼酎。もうナイフとフォークの持ち方を忘れてしまうくらい、割り箸系の店ばかりに行っています。仮にすごくお金持ちになったとしても、赤提灯にひかれてしまうと思います。
一度、1本1本が高いけどものすごくおいしいと評判の焼鳥屋さんに行ってみたら、あまり嬉しくなかったんです。なんだか焼き鳥にばかり集中しちゃって、お酒がおろそかになってつまらないなと。
モノ選びとも共通すると思うのですが、お酒のセレクトもお店選びも、あんまり凝りすぎているのも、高すぎるのもいやですね。
日本酒のなかでは、たとえば新潟の清泉や青森の田酒が好きです。これらはお店によってはけっこうな値段をつけていたりするけれど、それが良心的な値段で出てくる店が好き。
ウチでごはんを食べるときに、一人でも飲むということはほとんどないので、お酒そのものよりは、やはり親しい人といっしょに会話を肴に飲むのが好きなんでしょうね。

この本の感想のなかに、スマートで都会的なクールさが追体験できる、というものがありました。

自分が都会的に見えるのかと思って、感慨にふけりました。いなかの生まれだし。でも、きっと無意識のうちにカッコつけていたいと思っているのかもしれません。私はてんびん座で、それはカッコつけたがる星座らしいですよ、朝のラジオでいっていました(笑)。

持読者層も年齢・性別を問わず幅広いですね。

わりといろんな感想を聞きますので、読む人によって捉えられる余地が残っている文章なのかも。
ただ、あまり甘ったるい感じにならないようには意識して書いています。いわゆる「泣ける本」も好きじゃないし。たぶん、ちょっと頑固なラーメン屋みたいな気持ちなんでしょうね。自分なりに頑張って書いているつもりなので、どうぞ読んでみてくださいとは思いますが、押し付けたくはない。
文体も「だ、である」調ですし、クールに書きたいという思いが無意識にですがあるようです。最近そうじゃないものも書きたいと思いはじめて、フィクションに挑戦中です。

エッセイ同様、女の子の視点を保ちながら、独特の潔さがあるような世界?

エッセイでは、恋愛の話やブラックな感情については深く書きこんだことがなくて、作り話であるという前提だったら、そういう事柄ももっとのびのび書けるんじゃないかと思って。
過渡期の少女の移り変わっていく感情やものの見方について書きたいと思って、これからの5カ年計画にしようと、いろいろと考えているところです。

プロフィール
木村衣有子 (きむら ゆうこ)
文筆家。1975年生まれ。東京・阿佐ヶ谷在住。
著書に『京都カフェ案内』『東京カフェ案内』『東京骨董スタイル』(平凡社)、『和のノート』『京都のこころAtoZ』(ポプラ社)、『手紙手帖』(祥伝社)、『わたしの文房具』(KKベストセラーズ)がある。
ブログ パール日記
書籍
或る日の切り抜き 東京・神奈川めぐり
慧眼の乙女がつづる、東京・神奈川の日常と、愛すべきものをセレクトしたハイセンス日記
¥1,000(税込¥1,100