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プロフィール
大杉正明(おおすぎ・まさあき)
静岡県生まれ。清泉女子大学教授。1998年〜1999年英国エクセター大学客員教授。研究分野は音声学から辞書学まで幅広い。NHKラジオ「英会話」のほか、2003年〜2004年NHK教育テレビ「いまから出直し英語塾」、2006〜2008年NHKラジオ「ものしり英語塾」などに講師として出演。2008年からNHKラジオ「英語ものしり倶楽部」講師。著書に『大杉正明のWhat’s New Today?』、『ドラマで英語リスニング バンクーバー・ストーリー』(DHC)など多数。
書籍
大杉正明のCross-Cultural Seminar
大杉正明のCross-Cultural Seminar
¥1,785 (税込)
外国語ができるということの背後には、コミュニケーションのためのストラテジィーが必要です。
本書は、異文化間コミュニケーションをテーマにしていますが、企画の背景にはどういう狙いがあったのでしょうか?
外国語でコミュニケーションをうまくはかるためには、様々な条件があります。一般には、英語なら英語という言語のスキルだけに注意を奪われがちですが、外国語ができるということの背後には、コミュニケーションのためのストラテジィーが必要です。その基本になるのは、文化が違う人たちのあいだで摩擦が起こらないようにコミュニケーションをはかるためのノウハウです。言語として適切な表現を使うということだけでなく、非言語的な要素、すなわち、よくノンバーバルコミュニケーションといわれますが、正しいジェスチャーを使うとか、正しいコミュニケーションのためのアプローチをすること。普段はそういう側面を見逃しがちなので、英語圏と日本語圏のあいだにある様々な考え方とか習慣の違いに注目し、それを理解して円滑なコミュニケーションをはかってもらいたいと思ったわけです。
いろいろなテーマをピックアップして、先生とスーザン岩本さんとのトークで進めていくというスタイルですね。
テーマは、「ビジネス関係」、「日常生活」のように大きくいくつかに分け、その中からさらに細分化して考えました。本書では、「お勘定のルールは日米で違う?」「上司をいきなりファーストネームで呼べる?」「男性の育児休暇は英語で何て言う?」など身近で役に立つと思われる60項目を選んで収録しました。
スーザンさんは、日本人と結婚しているということなので、日本のこともアメリカのこともよくご存知でいらっしゃる。
そう。まさしく家庭内においても異文化間コミュニケーションを実践しているということですね。またかつて日本のある大企業に勤めていたこともあって、ビジネスシーンにおいても異文化間の衝突など、様々な問題について非常に経験豊富であります。ですから、絶対におもしろい話がしてもらえるに違いないと思っていました。実際、どの話を聞いても我が意を得たりということが多かった。実はこの企画を通じて彼女の話を聞きながら、私自身も目からウロコということが多々あったので、これは私にとっても知的な刺激をおおいに受けた貴重な体験になりました。
それだけレベルも高いということでしょうか。
まあ、低いとは言えませんね。まず、スーザンさんはあまり手加減せず、アメリカ人のネイティブスピーカーがふつうに話すスピードで話しています。ですから、このCDを聴いて、正確に理解できたら、相当ハイレベルだと思っていいでしょう。
もう一つ、本書で使われているボキャブラリーのほとんどはアメリカの高校を出ていれば、ふつうに出会う単語です。ところが、日本の中学・高校で使う検定教科書をどんなに一生懸命読んでいても、ここに出てくる語句の30%くらいは知らないと思います。検定教科書に登場する語彙と、実際の日常生活用語としてネイティブスピーカーが使う語彙とでは「ずれ」があるんですね。
例えば、2音節の形容詞が英語にはたくさんあって、日常生活のなかでものすごく活躍する。「ベタベタする」のsticky、「むしむしする」のmuggy。特にmuggyなんて、日本の夏の気候を外国人に伝えるとしたらどうしたって知らなきゃいけない単語なのに、載せている教科書はまれです。このほか、candy appleのような文化性の強い語彙もあまり教科書には出てきません。
教科書では学べない英語が学べる?
そうです。スーザンさんがアメリカでの生活体験を語るときは、教科書では学びにくい極めて文化性の高い語彙を、それを学ぶためのphraseや比喩表現として取り上げているので、合わせて覚えていただくとlisteningの力と同時に表現力も語彙力も身につくわけです。
ですから本書の一番の魅力は、自然な英語であることと、日本人の英語学習者が遭遇しそうな異文化間の問題が生じる場面を想定した内容となっていることではないでしょうか。
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英文と実際に聞こえる音を一致させてみるというプロセスを経る必要があります。
本書の活用の仕方として、「まずCDを聞いてみる。そしてわからないところが多い場合には英文を読む。それからもう一回聞く」ということですが、それを何回となく繰り返しているうちに自分のものになっていくのでしょうか?
 いわゆる意味の理解を中心にして、大雑把にでもいいから大体こんなことを言ったというふうに自分の理解力を伸ばすことを中心にした聴き方と、非常に細かいところにフォーカスして、ここのところを何と言ったかどうしてもきちんと聴き取りたいという聴き方があります。もしも、2、3トピック聴いてみて、何を言っているのかわからないという場合は、まずスクリプトを読んで、その後で聴くというふうに順序を変えたほうがいいでしょう。というのは、全然わからないものをただ聴いていればわかるようになるというものではないからです。
全然わからないというのは、いくつか理由がありますが、どう考えてもボキャブラリーの力が足りない。知らない単語が5割以上ある場合は、先にスクリプトを読んで、文の構造とか知らない単語を辞書で調べ、英文と実際に聞こえる音を一致させてみるというプロセスを経る必要があります。歌の歌詞の聴き取りでも、ああこういう英語だったんだってわかると、ちゃんとそういうふうに聞こえるようになる。そんな経験をした人は多いと思いますが、それと同じです。
先生は大学に入ってから本格的に英語を勉強し、FEN(現AFN)で音楽を聴くのが楽しくて、それでずいぶん上達したとか。
いわゆる聴いたり話したりすることを始めたのは大学に入ってからですね。今のようにいろんな音声教材もカセットテープもない時代でした。FENも聴き直すことができないし、最初は何言ってるかわからなかったけど、やはり語彙力は非常に大事で、語彙力がついてくると、わかる箇所がどんどん増えてくるんですね。
そういう意味では多読多聴は上達への道?
私は、言葉を覚える基本は、特に外国語の場合は、本を読むことだと思っているんですよね。
これだけいろんな音源があっても、読むこと?
読むことは、特に大人が知的な活動をしながら外国語を覚えるためには、非常に重要なこと。ただ、言葉の勉強というのは、あるやり方だけをしていればいいってもんじゃないんですね。
例えば、家を出るときには必ず英語のペイパーバックを1冊はかばんにしのばせる。ICレコーダーとか、i-PodなどにCDから落とした英語の教材があれば、そういうものも持って出て、電車の中などで聴く。時間があれば公園のベンチでもいいから座って、持ってきた本を読む。そういう上質な時間を過ごすことを心がけていただきたいなと思うんですよね。
人間はいろんなことをして暮らしているわけですから、いろんな場面でいろんな活動の隙間時間を活用したりしてやるのがいいと思います。「聴く」のが適している環境では聴けばいいし、「読める」環境にあるときには読んだほうがいい。それぞれに意味があることなので、どっちもやってほしいですね。
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日本人としてのアイデンティティーを保ちながら、いかに異文化の背景を持つ相手に不快感を与えずに付き合うかということ。
先生ご自身は、異文化間コミュニケーションでの失敗談は何かおありですか?
失敗はたくさんしてきたわけですが、どっちかっていうと、異文化間コミュニケーションという高度な側面での失敗以前に、英語そのものができないことによる大失敗のほうが強烈です。つまり正しい英語を言えなかった。文化的摩擦以前の問題、そういうのは山ほどあります。
一例をあげれば、あるミュージシャンに、この世界にいつ入ったかを聞いてくれと言われて、When did you come into this world? って通訳しちゃった。これって、いつ生まれたかと聞いているのと同じでしょ。そんなことにも気づかない。自分がつくった英語がどういう意味になるかということをよく考えもせず、ただ直訳しちゃった。
セクハラまがいの失敗も、たくさんあったと思いますが、それにも若いころは気づいていなかったでしょうね。セクシャルハラスメントなんてことに対する認識が高まったのは、1970年代以降のことでしょ。平気で、You have nice legs. なんて女性に言っちゃったりして。女の人は、褒めるのがいいと書いてあるから、褒め言葉のつもりで言ってたつもりが、セクハラになるなんて思いもしなかった。そういう点でも数々の過ちを犯してきたと思いますが、スーザンさんとこの企画をやったおかげでずいぶん認識があらたまったと思います。
異文化摩擦を避けるために、特に何か気をつけていることはありますか?
そうですねぇ、日本人としての常識というものを一度疑ってかかるというところはあります。最近は年をとったので、わりあいに慌てずにできていると思いますが、人間としておかしくないということはどういうことか、というふうに考えるようにしてるかな。自分がしてほしくないことはなるべく他人にしないようにするとか、自分が言われたくないことは他人に言わない、そういうことですかねぇ。バランスなんだと思うんですよ。
アメリカでホームステイしたり、イギリスで教授をされたり、そういうなかでどんどんグローバルシチズンとして磨きをかけていった?
そうでもない。まだ根っこは非常に日本人だなと感じますし、日本人のいいところはなるべく失いたくない。私にとって異文化間コミュニケーションというのは、日本人としてのアイデンティティーを保ちながら、いかに異文化の背景を持つ相手に不快感を与えずに付き合うかということ。相手に迎合して、ただ何でも相手に合わせようということではないんです。
ですから、日本蕎麦を食べるときは絶対ズルズル音を出して食べます。それが日本蕎麦のおいしい食べ方ですから。それは外国人といっしょのときでも、こうやって食べるのがおいしいんだとちゃんと説明する。その国の食材とか、文化というのは、それを一番おいしく楽しめるように文化的に培ってきてるわけですから。だからこの本を読めば、ただ単に外国人に合わせようというんじゃないということがわかると思います。説明すべきところは説明して、日本人のやり方でいったほうがいいと思うところは、やはりきちんと説明してそういうふうにすることが大事だと思いますね。

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